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仙台地方裁判所 昭和53年(ヨ)180号 決定 1978年5月13日

債権者 平沢亀一郎

右訴訟代理人弁護士 豊田喜久雄

債務者 合資会社二村食品

右代表者無限責任社員 二村章

右訴訟代理人弁護士 高橋勝夫

債務者 安藤建設株式会社

右代表者代表取締役 三宅孝雄

主文

債権者の本件仮処分申請はこれを却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  債権者

(一)  債務者等は債権者に対し仙台市宮町一丁目四五番六、四五番八、四五番九、四五番七及び四五番一〇の宅地四六〇m2六四(実測四五七m2五五)に建築予定の別紙目録(一)記載の鉄筋コンクリート造四階建共同住宅のうち四階部分の建築工事をしてはならない。

(二)  債務者等は右建物の北面に解放式片廊下を設置してはならない。

(三)  申請費用は債務者らの負担とする。

二  債務者合資会社二村食品

(一)  債権者の申請を却下する。

(二)  申請費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  債権者(申請の理由)

(一)  債権者は別紙目録(一)記載の建築予定建物(以下本件予定建築物という)の敷地たる別紙目録(二)記載の土地(以下本件予定土地という)の北側隣接地たる別紙目録(三)記載の土地一七六五m2一一(以下債権者所有地という)の所有者であり、且つ右土地上に所有する別紙目録(四)記載の建物(以下債権者居住家屋という)に居住している。

(二)  債権者所有土地及び債権者居住家屋は債権者が亡父平沢参治から昭和一八年八月五日家督相続に依って相続したもので、大東亜戦争の戦前、戦中は債権者が台湾総督府に勤務する関係で右土地、建物を離れたが、終戦の翌年たる昭和二一年以降現在迄三〇年余右土地建物に居住して来た。約六〇〇坪の広大な右土地内には債権者居住家屋の外債権者又は債権者身内名義の家屋六棟(賃貸中)及び申請外伊沢吉之助名義の家屋一棟計七棟の木造平屋建の建物が配置されて居る。又債権者居住家屋の南側壁面から本件予定土地たる南側隣接地との境界線に存在する塀迄約一〇米余の距離内には庭園、花壇、疏菜園が終日日照、通風の自然の恵みの下に豊かに生育している。

(三)  債権者は現在年令八八才とあって多年たづさわって来た海外移民事業から退後し、妻申請外平沢ゆき八〇才と二人暮らしであり、右平沢ゆきは変形性膝関節症を患って歩行全く不可能な為その看護世話をやりながら債権者居住家屋にて閑かな余生を送っている。

(四)  債務者合資会社二村食品の代表社員二村章は約一〇年前名古屋から移住して来仙し、債権者所有地南側に隣接する本件予定地を買取り現在迄本件予定地上の木造家屋に居住しているが、本件予定地に本件予定建物(営業用マンション)の建築を企図して債務者安藤建設(株)に建築工事を発注し、債権者をはじめ近隣居住者の反対を押し切って、昨年一二月一〇日仙台市に建築確認を申請し、昭和五三年二月一七日同市の許可を得た。そして地上四階建てを地上三階地下一階建てに設計変更を再三勧告して来た債権者に対し、旬日中に工事着工する旨の通告を去る三月一七日債務者安藤建設(株)を通して伝達して来た。

(五)  本件予定地を含むこの辺一帯は仙台市の用途地域は近隣商業地域に、又防火地域は準防火地域にそれぞれ指定されているが、現状は準商店街というよりはむしろ木造一、二階建家屋の多い低層住居地域というのが実態である。

即ち、本件建築予定地は国道四八号線の花京院橋手前から左折して北方に通ずる宮町一丁目通り(巾員六米)を東六小学校を通過して約三〇〇米進行した道路右側に面して間口八米、奥行三八米の東西に短冊形に位置を占めた土地で、北側隣接地債権者所有地とともに一帯は仙台市の近隣商業地域に属するものの、所謂近隣商業地域の「近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の利便を増進するため定める地域」たる準商店街の実質はなく、低層の木造住宅の類集が目立ち、又道路筋には小規模な店舗があっても併用住宅で、むしろ第一種専用住宅地域の外観と実質を備えている。

本件予定地の周辺には債権者所有地の北側に四階建の鉄筋ビル東邦銀行仙台寮、東側に鉄筋ビル四階建マンション七福コーポ、東南側に鉄筋ビル四階建電々公社アパートと偶然中層鉄筋ビルが本件予定地を囲繞した感があるが、この地区全体から見ればむしろ例外現象であり、中高層化が不可避的に進行している副都心部とはいい難い。換言すればこの地区全体は現在のところ人口密度の高い都市地域とまでは発展しておらず、又高度の土地利用を必要とする人口過密地帯とまでは至っていない。

むしろ駅前及び花京院周辺の商店街の発展高層化に伴って本来の住居地域に逆行する動きすら見られる。

(六)  ところで、本件予定地に予定建築物が建築される場合の債権者居住家屋の冬至日に於ける日照状況は、開口部(一二畳間居間の南端)の日照時間が零で、終日完全日影となる。

春、秋分に於ける日照状況は、開口部は午前中二時間乃至三時間南端すれすれの日照を期待出来るが、庭園及び蔬菜園の大半は終日完全日影から回復されず、結局開口部の日照エネルギーは完全日照の場合の犬量減となること確実である。

(七)  本件予定建物の北側壁面と債権者居住家屋の居間一二畳間の南側壁面との距離は一〇米余あるが、右居間の南側(開口部)の中心で地面から眼の高さ一米のところで本件建物に対向するとき、視角は一一二・八度(但し、人間の限界視角は一〇〇度)であり、仰角は四二・五度(但し、人間の限界仰角は上限一八度)である。天空は著しく侵奪され、極度の圧迫感を強いられる。

以上の如く、債権者は、その居住家屋の南側境界線に四〇乃至五〇糎の距離を残して高さ一二m三五、長さ三五m四五の本件予定建物が眼前におおいかぶさる様に建上る時は日照の極度の阻害は勿論強い圧迫感等を受ける外通風、採光にも重大な支障をきたし、更には建築物北面に解放式片廊下が設けられることからのぞき見されるおそれも現実化する訳である。

債権者が八八才の老令者であり、妻申請外平沢ゆきも又八〇才の高令者であり、病気療養とその看護のうちに閑かに余生を過す老夫婦であることを考慮の外に置いても、本件予定建築物に依る人格権の侵害の態様及び程度は社会生活上受忍すべき限度を著しく越えていることは明白である。

(八)  然らば申請の趣旨第一項の主文が認容され、本件予定建築物が四階から三階に設計変更がなされた場合、前記もろもろの侵害が如何に緩和されるかを検討するに、先ず日照阻害は、冬至日に於ける開口部の状況は有効日照時間零に変わりはないが、春、秋分における開口部の終日日照が回復されること、庭園、蔬菜園の日照時間、日照範囲が伸長拡大されることが確実となり、日照阻害の判断資料を冬至日に固定せず、秋分から冬至、冬至から春分まで七ヶ月間にわたり綜合的に考慮する時、右の状況は債権者の受忍限度内に達することが予想される。

更に天空侵奪の範囲も相当程度解放されることは確実であり、又予定建築物の北面の解放式片廊下の設置を中止して覗見の危険を取除くなら債権者は右建築の着工を甘受してもよいと考える。

(九)  昭和五一年法律第八三号に依って新設された建築基準法第五六条の二に依れば日影による中高層の建築物の高さに制限が設けられ、近隣商業地域でも高さ一〇米以上の建築物には日影時間の制約があるところ、右改正法は既に昭和五二年一一月一日から施行され、右改正法の趣旨に反する仙台市の建築指導要綱は違法なものとなったにも拘らず、同条同項一号の所謂「条例」が未制定であることを奇貨として、昨年一二月一七日急拠駈込み申請の上、旧建築指導要綱に基づく確認許可を得たもので、違法確認の疑いがある。

又債務者合資会社二村食品の本件建築の狙いは営利であり、又債権者の再三の抗講及び勧告(地上三階地下一階に設計変更の事)にもかかわらず協議に応ずることなく着工を敢行する債務者等の害意は歴然である。

債権者は目下債務者等を被告として日照、通風、採光等妨害に基づく建築行為差止請求の本案訴訟を用意しているが、債務者等の右の状態を放置しては他日勝訴判決を得ても強制執行の目的を達し難い訳である。依って本申請に及ぶ。

二  債務者合資会社二村食品

(一)  債権者の主張(申請の理由)に対する答弁

申請の理由(一)は認めるが債権者の土地建物の詳細は不知、同(二)のうち債権者が北隣に居住していることは認めるがその余は不知、同(四)のうち債務者が本件予定建築物を建築するにつき債権者以外の者が反対していることは否認しその余は認める、同(五)のうち本件土地周辺が低層住居地域であることは否認しその余は認める、同(七)のうち本件予定建築物の北側に解放式廊下を設けることは否認し、その余は不知、同(八)は否認し同(九)は争う。

(二)  債務者合資会社二村食品の主張

(1) 債務者合資会社二村食品は本件予定建築物につき債務者安藤建設株式会社(仙台支店)へ、設計施工を依頼し、同社は株式会社楠山建築設計事務所に、設計を依頼した。本件土地は、近隣商業地域であり、仙台市日照等に関する建築指導要綱によれば、近隣商業地域では、高さ一二メートル五以上、階数五階以上の建築物を建築するときのみ、周辺の日照が確保されるよう配慮することを求めている。二村食品が、建築を予定している建物は、四階建の賃貸ビルで、高さは一二メートル三五しかない。従って、仙台市日照等に関する建築指導要綱の適用のない建物である。

(2) 楠山設計事務所は、昭和五二年一二月一〇日、仙台市に対し、建築確認申請を提出したが、仙台市は、これに対し、昭和五三年二月一七日、確認をした。この間、債権者は、仙台市に対し、文書又は口頭で、数回にわたり、建築確認申請を却下すべきであるとの上申をしたので、仙台市は慎重に審査し、何等違法がないとのことで、建築確認をしたのである。

(3) 債務者二村食品は、本建築をなすにあたり、建築資金を住宅金融公庫から借受けることとし住宅金融公庫に借入を申込んだが、公庫は昭和五二年一〇月一一日建築確認申請の設計図に従い建築することを条件に金一一四、二〇〇、〇〇〇円を貸付けることを内定し、債務者二村食品に対し、仙台市が建築確認をした日から一ヶ月以内に、工事に着手することを命じてきた。

かりに本件予定建築物の設計変更をするとすれば、住宅金融公庫からの借入承諾は、白紙撤回されることになるのでその損失は、極めて大きい。

(4) 債権者は、本件予定建築物が完成すると、冬至日における日照時間がゼロになると主張しているがそのようなことはない。建築を予定している建物の、四階の北側を、斜めにしているので、冬至日でも、日照がゼロになることはありえない。

(5) 本件土地は、民法第二〇六条、第二〇七条によって、所有者が、自由に、使用、収益、処分ができるし、又、所有権の範囲は、その土地の上下に及ぶ。債務者二村食品は、本件土地を賃借して居住用賃貸ビルを建てるのである。仙台市は、本建築予定の建物に、何等違法はないとして、建築確認をした。それにもとづき、債務者等は、建築工事に着手しようとしているのである。

本件予定建築物が完成すれば、北隣に居住する債権者は、有形、無形の影響を受けることであろうが、それは、債権者が、都市生活を営む以上、受忍すべきことである。

(6) 申請の理由(九)の建築基準法五六条の二に関する主張に対して

仙台市では現在右条文に基づく対象区域を指定する条例を制定していない。本件土地の北側には、四階建鉄筋ビル東邦銀行仙台寮、東側に、鉄筋ビル四階建マンション七福コーポ、東南側に、鉄筋ビル四階建電々公社アパート(西南側に、七階建田丸家具店)の、中高層ビルが建っている。従って、本件土地は、近隣商業地域であるけれども、後日、条例制定のとき、対象地域からはずされるものと推測される。即ち、本件土地に建築しようとする建物については、昭和五二年一二月一〇日、仙台市へ建築確認申請をなし、仙台市は、昭和五三年二月一七日、申請書及び添付図面に記載の建築物の計画は、法律、命令、条例に適合することを確認し、確認通知書を交付した。仙台市は、建築基準法第五六条の二の存在を知っているし、近い将来、対象区域を定める条例を制定しなければならないことも知っている。もし、仙台市が、条例で、本件土地を、対象区域と指定する意図があったとするならば、建築確認の審査をするとき、行政指導のかたちで、設計変更を勧告していたと思われる。殊に、本件の審査のときは、債権者が、仙台市に対し、口頭又は文書で、建築確認をすべきではないと上申していたのであるから、仙台市は、右に述べた諸事情を充分勘案して、建築確認をしたはずである。仙台市が、本件土地に建築しようとする建物の建築確認をしたことは、仙台市が、後日、条例制定のとき、本件土地を、対象区域に含めない方針であると推測されるのである。

理由

一  債権者と債務者合資会社二村食品との間に争いのない事実と《証拠省略》によると、債務者合資会社二村食品(以下単に債務者という。)が別紙物件目録(一)記載の四階建、高さ一二・三五メートルの共同住宅(以下本件予定建築物という)を別紙物件目録(二)記載の土地に建築しようとしていること、この敷地の北側に隣接する別紙物件目録(三)記載の土地および同地上の別紙物件目録(四)記載の家屋が債権者の所有でこの家屋に債権者が居住していること、本件予定建築物敷地周辺が近隣商業地域であること、本件予定建築物の北側壁面から債権者方居宅南側壁面までの距離は一一メートルないし一二メートルあり、本件予定建築物が高さ一二・三五メートルで東西が非常階段部分を含め三七・七メートルと長い建物であるため、これが完成すると、債権者方居宅南側面が、冬至において、午前八時から午後四時までの間には朝二時間、夕方三〇分の合計二時間三〇分、午前九時から午後三時までの間には朝一時間のみの日照時間しか得られないこととなり、春分においては午前八時から午後四時までの間債権者方居宅南側の庭には日影が残るものの居宅はほぼ完全に日照を得られること、仮に本件予定建築物を債権者が求めるように三階建とした場合には春分における庭の日照部分が大きなくるものの冬至における債権者方居宅の日照時間は四階建の場合と同じであること、建築基準法五六条の二の対象地域に指定されたと想定して債権者方居宅敷地の地盤面から四メートルの高さの個所における午前八時から午後四時までの日影時間を測定すると六時間以上となること、以上の事実が疎明される。

二  ところで、仙台市日照等に関する建築指導要綱では、近隣商業地域において高さ一二・五メートル又は階数五階以上の建築物を建築する場合、周辺建築物の居住の用に供する一以上の居室に対し冬至における九時から一五時迄の間二時間以上の日照を確保するよう努力することとされており、また、建築基準法五六条の二では、その対象区域に指定された近隣商業地域において高さ一〇メートルを超える建築物は、敷地境界線から一〇メートルを超える場所の平均地盤面からの高さ四メートルの高さの個所において冬至日午前八時から午後四時までの日影時間が二・五時間又は三時間以上とならないようにしなければならないとされている。

右の建築指導要綱や建築基準法の規定は、土地の高度利用をする者と日照阻害を受ける周辺住民との利益を調和し紛争の発生を防止して市街地の健全な発展を図ることを目的として制定されたものであるが、これは一面において都市生活をする者はある程度の日照被害があってもこれを受忍すべきものとしてその範囲を行政の見地から定めたものということができる。このように日影規制に関する規定が整備された以上これら規定に抵触しない建築物によって日照被害が生じたとしても、かゝる日照被害はそれがいちじるしく受忍限度を越えないものである限り、これを受忍すべきであって、かかる建築物につき建築差止めを求めることは原則としてできないと解するのが相当である。

本件予定建築物は右の建築指導要綱の適用外の建物であるし、また本件予定建築物の敷地周辺は建築基準法五六条の二の対象区域に指定されていないから、これら規定に抵触していないこととなる。もっとも、本件予定建築物が建築されると、債権者方居宅の冬至における九時から一五時までの日照時間が二時間未満であるし、また地盤面からの高さ四メートルの個所の日影時間が三時間を越えることとなること前疎明のとおりであるから、本件予定建築物により債権者が受ける日照妨害その他の被害が受忍限度を越えるかどうかをなお個別的具体的に考慮してみる。

三  《証拠省略》によると、本件予定建築物敷地は仙台駅の北東方向で仙台駅に近く、平家又は二階建の木造建築物が圧倒的に多いとはいえ四階建又はこれを超える中層建築物もまた随所に見られ今後はむしろ中高層建築物が増加する可能性が見受けられる。

四  《証拠省略》を綜合すると、債権者はかねてより本件予定建築物の建築に反対し、債務者において建築確認申請をした際にも仙台市建築主事に対して建築確認をしないよう嘆願したので、建築主事は必要な行政指導をするなどして慎重に審査したうえ建築確認したものであること、債務者は住宅金融公庫の融資を得て本件予定建築物を建築しようとしているものであるところ、建築確認申請の設計図に従って設計することが融資の条件とされていること、従って設計変更すれば融資を受けられることはできなくなって建築そのものを中止するより他はないこと、以上が疎明される。そして、仮に債権者が求めるように三階建の建築にとどめたとしても債権者方居宅の日照時間が四階建の場合と同じであることは前に疎明されたとおりである。そうすると、債務者側において債権者の受くる日照被害を回避又は減少せしめることを四階部分の建築を差止める方法で求める余地は無いということになる。

五  《証拠省略》によると、債権者方居宅の東側に債権者は約一〇〇平方メートル位の空地(庭園)を所有していることが疎明される。そして《証拠省略》によると、この債権者方居宅東側の空地部分は、本件予定建築物が完成後も、冬至の午前八時から午前一一時まではほぼ完全な日照が得られるし、午前一一時から午後一時までの間は空地部分東半分はまだ日照があることが疎明される。そうすると、本件予定建築物による日照被害に対し、債権者はこの空地部分に居宅を移動するか又は空地部分に居宅を増築するなどして被害回避の措置をとることが可能であると解される。

六  これらの疎明結果からみると、債権者が八〇才を超える老令で、病弱な妻と共に静かな余生を送っているという事情を考慮しても、本件予定建築物による日照被害が受忍限度をいちじるしく越えているとまでいうことはできない。また、債権者方居宅の南側に四階建の東西に長い建物が完成すると前面の視界が阻害され、圧迫感を受けることは否定できないが、債権者方居宅南側と本件予定建築物との間に一一メートル以上の距離があり、また本件予定建築物が高さ一二・三五メートルの四階建で北側屋根部分が斜線となっていることからみて、これらもまた受忍限度を越えているとはいえないし、《証拠省略》によると本件予定建築物により債権者方居宅南側の庭木が冬至においてはほぼ終日にわたり日影となることが疎明されるが、これは本来日照阻害による生活上の被害とは別個の問題であるし、《証拠省略》によると春分から夏至を経て秋分に至る間は庭木にとって必要な日照は確保されていることが疎明されるので、これをもって本件予定建築物の建築差止めを求める根拠とはなし得ないと解する。

《証拠省略》によると、本件予定建築物の北側は解放式廊下となっており、このままでは債権者方居宅がのぞき見されるおそれの生ずることは充分に推察される。しかし、本件予定建築物の敷地面積、構造等からみて、北側に廊下を設けないわけには行かず、のぞき見される危険性は債務者側において北側廊下の債権者方居宅に面した部分に目かくしを設置すれば回避されるので、債権者において債務者に右設備の設置を要求すれば目的を達し得るものであるうえ、債務者の答弁によると、債務者は相当な目かくしを設置する予定であることもうかがわれるので、北面に右廊下を設置すること自体を差止めることはできないと解する。

七  以上の諸点を総合して考慮すると、本件予定建築物により債権者が被ることあるべき被害のうち、日照、天空や前方視界の阻害は受忍限度をいちじるしく越えるものではないし、のぞき見される危険性は目かくしを設置することによって防止できるものであるから、本件仮処分申請はいずれもその被保全権利が存するとは認められない。

そこでこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 斎藤清実 竹花俊徳)

<以下省略>

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